P--1217 P--1218 P--1219 #1蓮如上人御一代記聞書 #2本 蓮如上人御一代記聞書 本 #31 (1) 一 勧修寺村の道徳 明応二年 正月一日に 御前へまいりたるに 蓮如上人 おほせられさふらふ 道徳は いくつになるそ 道徳 念仏まうさるへし 自力の念仏といふは 念仏おほくまうして 仏にまいらせ  このまうしたる 功徳にて 仏のたすけ 給はんするやうに おもふて となふるなり 他力といふは  弥陀をたのむ 一念のおこるとき やかて 御たすけに あつかるなり そのゝち 念仏まうすは 御た すけありたる ありかたさ〜と 思ふこゝろを よろこひて 南無阿弥陀仏〜と 申はかりなり さ れは 他力とは 他のちからと いふこゝろなり この一念 臨終まてとほりて 往生するなりと おほ せ さふらふなり #32 (2) 一 あさの御つとめに いつゝの不思議を とくなかより 尽十方の無礙光は 無明のやみを てらしつゝ  一念歓喜するひとを かならす滅度に いたらしむと候段の こゝろを 御法談のとき 光明遍照 十方 世界の 文のこゝろと また 月かけの いたらぬさとは なけれとも なかむるひとの こゝろにそす むとある うたをひきよせ 御法談候 なか〜 ありかたさ まうすはかりなく候ふ 上様 御立の御 P--1220 あとにて 北殿様の仰に 夜前の御法談 今夜の御法談とを ひきあはせて仰候 ありかたさ〜 是非 におよはすと 御掟候ひて 御落涙の御こと かきりなき 御ことに候 #33 (3) 一 御つとめのとき 順讃御わすれあり 南殿へ 御かへりありて 仰に 聖人御すゝめの和讃 あまりにあ まりに 殊勝にて あけはをわすれたりと 仰さふらひき ありかたき 御すゝめを信して 往生するひ と すくなしと 御述懐なり #34 (4) 一 念声是一といふこと しらすと まうしさふらふとき 仰に おもひうちにあれは いろほかに あらは るゝとあり されは 信をえたる体は すなはち 南無阿弥陀仏なりと こゝろうれは 口も心もひとつ なり #35 (5) 一 蓮如上人仰られ候 本尊は 掛やふれ 聖教は よみやふれと 対句に 仰られ候 #36 (6) 一 仰に 南無といふは 帰命なり 帰命といふは 弥陀を 一念たのみまいらする こゝろなり また 発 願廻向といふは たのむ機に やかて 大善大功徳を あたへたまふなり その体すなはち 南無阿弥陀 仏なりと 仰候き #37 (7) 一 加賀の願生と 覚善と 又四郎とに対して 信心といふは 弥陀を一念 御たすけ候へと たのむとき  やかて 御たすけある すかたを 南無阿弥陀仏と まうすなり 総してつみは いかほとあるとも 一 念の信力にて けしうしなひ給ふなり されは 無始已来 輪転六道の妄業 一念 南無阿弥陀仏と 帰 P--1221 命する 仏智無生の 妙願力に ほろほされて 涅槃畢竟の真因 はしめて きさすところを さすなり といふ 御ことはを ひきたまひて 仰さふらひき されは このこゝろを 御かけ字に あそはされて  願生に くたされけり #38 (8) 一 三河の教賢 伊勢の空賢とに 対して 仰に 南無といふは帰命 このこゝろは 御たすけ 候へと た のむなり この帰命のこゝろ やかて 発願廻向のこゝろを 感するなりと 仰られ候なり #39 (9) 一 他力の願行を ひさしく 身にたもちなから よしなき 自力の執心に ほたされて むなしく 流転し けるなりと候を え存せす さふらふよし まうしあけ候ところに 仰に きゝわけて え信せぬものゝ ことなりと 仰られ候き #310 (10) 一 弥陀の大悲 かの常没の衆生の むねのうちに みち〜たると いへること 不審に候と 福田寺 申 しあけられ候 仰に 仏心の蓮華は むねにこそ ひらくへけれ はらにあるへきや 弥陀の身心の功徳  法界衆生の 身のうち こゝろのそこに いりみつともあり しかれは たゝ領解の心中を さしてのこ となりと 仰さふらひき ありかたきよし さふらふなり #311 (11) 一 十月廿八日の 逮夜に のたまはく 正信偈和讃を よみて 仏にも聖人にも まいらせんと おもふか  あさましや 他宗には つとめをもして 廻向するなり 御一流には 他力信心を よくしれと おほし めして 聖人の和讃に そのこゝろを あそはされたり ことに 七高祖の 御ねんころなる 御釈のこ P--1222 ゝろを 和讃に きゝつくるやうに あそはされて その恩を よく〜存知て あらたふとやと 念仏 するは 仏恩の御ことを 聖人の御前にて よろこひまうす こゝろなりと くれ〜仰られ候ひき #312 (12) 一 聖教を よくおほえたりとも 他力の安心を しかと 決定なくは いたつらことなり 弥陀を たのむ ところにて 往生決定と 信して ふたこゝろなく 臨終まて とほりさふらはゝ 往生すへきなり #313 (13) 一 明応三年十一月 報恩講の 廿四日あかつき 八時にをいて 聖人の御前 参拝まうして候に すこし  ねふりさふらふうちに ゆめとも うつゝともわかす 空善 おかみまうし候やうは 御図子のうしろよ り わたを つみひろけたるやうなる うちより 上様あらはれ 御出あると おかみまうすところに  御相好 開山聖人にてそ おはします あら不思議やとおもひ やかて 御図子のうちを おかみまうせ は 聖人御座なし さては 開山聖人 上様に現しまし〜て 御一流を御再興にて 御座候と まうし いたすへきと 存するところに 慶聞坊の讃嘆に 聖人の御流義 たとへは 木石の縁をまちて 火を生 し 瓦礫の&M065811;をすりて 玉をなすかことしと 御式のうへを 讃嘆あると おほえて ゆめさめてさふら ふ さては 開山聖人の 御再誕と それより 信仰まうすことに 候ひき #314 (14) 一 教化するひと まつ信心を よく決定して そのうへにて 聖教をよみかたらは きくひとも 信をとる へし #315 (15) 一 仰に 弥陀をたのみて 御たすけを 決定して 御たすけの ありかたさよと よろこふ こゝろあれは  P--1223 そのうれしさに 念仏まうすはかりなり すなはち 仏恩報謝なり #316 (16) 一 大津近松殿に 対しまし〜て 仰られ候 信心を よく決定して ひとにもとらせよと 仰られ候ひき #317 (17) 一 十二月六日に 富田殿へ 御下向にて候あひた 五日の夜は 大勢御前へ まいりさふらふに 仰に 今 夜はなにことに 人おほく きたりたるそと 順誓まうされ候は まことに このあひたの 御聴聞まう し ありかたさの 御礼のため また明日 御下向にて 御座さふらふ 御目にかゝり まうすへし か のあひた 歳末の御礼の ためならんと まうしあけられけり そのとき仰に 無益の 歳末の礼かな  歳末の礼には 信心をとりて 礼にせよと おほせ候ひき #318 (18) 一 仰に とき〜 懈怠することあるとき 往生すましきかと うたかひ なけくもの あるへし 然れと も もはや 弥陀如来を ひとたひ たのみまいらせて 往生決定の のちなれは 懈怠おほくなること の あさましや かゝる 懈怠おほくなる ものなれとも 御たすけは 治定なり ありかたや〜と  よろこふこゝろを 他力大行の 催促なりと 申すと 仰せられ候なり #319 (19) 一 御たすけ ありたることの ありかたさよと 念仏まうすへく候や 又御たすけ あらふする事の あり かたさよと 念仏申すへく候やと 申あけさふらふとき 仰に いつれもよし たゝし 正定聚のかたは  御たすけありたると よろこふこゝろ 滅度のさとりのかたは 御たすけ あらふすることの ありかた さよと 申すこゝろなり いつれも 仏になることを よろこふこゝろ よしと仰候なり P--1224 #320 (20) 一 明応五年 正月廿三日に 富田殿より 御上洛ありて 仰に 当年より いよ〜 信心なきひとには  御あひあるましきと かたく仰せ候なり 安心のとほり いよ〜 仰せきかせられて また誓願寺に  能をさせられけり 二月十七日に やかて 富田殿へ 御下向ありて 三月廿七日に 堺殿より 御上洛 ありて 廿八日に 仰られさふらふ 自信教人信のこゝろを 仰きかせられんか ために 上下辛労なれ とも 御出あるところは 信をとり よろこふよし まうすほとに うれしくて また のほりたりと  仰られ候き #321 (21) 一 四月九日に 仰られ候 安心をとりて ものをいはゝよし 用ないことをは いふましきなり 一心のと ころを よく人にもいへと 空善に 御掟なり #322 (22) 一 同十二日に 堺殿へ 御下向あり #323 (23) 一 七月廿日 御上洛にて その日仰られ候 五濁悪世のわれらこそ 金剛の信心はかりにて なかく生死を すてはてゝ 自然の浄土にいたるなれ この次をも 御法談ありて この二首の讃の こゝろをいひて  きかせんとて のほりたりと 仰候なり さて自然の浄土にいたるなり なかく生死をへたてける さて 〜 あらおもしろや〜と くれ〜 御掟ありけり #324 (24) 一 のたまはく 南無の字は 聖人の御流義に かきりて あそはしけり 南無阿弥陀仏を 泥にて うつさせられて 御座敷に かけさせられて 仰られけるは 不可思議光仏 無礙光仏も この南無阿弥陀仏を  P--1225 ほめたまふ徳号なり しかれは 南無阿弥陀仏を 本とすへしと おほられ候なり #325 (25) 一 十方無量の諸仏の 証誠護念のみことにて 自力の大菩提心の かなはぬほとはしりぬへし 御讃のこゝ ろを 聴聞まうしたきと 順誓 まうしあけられけり 仰に 諸仏の弥陀に 帰せらるゝを 能としたま へり 世のなかに あまのこゝろを すてよかし 妻うしのつのは さもあらはあれと これは 御開山 の御うたなり されは かたちはいらぬこと 一心を本とすへしとなり 世にも かうへをそるといへと も 心をそらすと いふことかあると 仰られ候 #326 (26) 一 鳥部野を おもひやるこそ あはれなれ ゆかりの人の あとゝおもへは 是も 聖人の御歌なり #327 (27) 一 明応五年 九月廿日 御開山の御影様 空善に 御免あり なか〜 ありかたさ 申に かきりなき事 なり #328 (28) 一 同十一月 報恩講の廿五日に 御開山の御伝を 聖人 御前にて 上様あそはされて いろ〜御法談さ ふらふ なか〜ありかたさ まうすはかりなく候 #329 (29) 一 明応六年 四月十六日 御上洛にて その日 御開山聖人の 御影の正本 あつかみ一枚に つゝませ  みつからの 御筆にて 御座候とて 上様御手に 御ひろけさふらひて みなに おかませたまへり こ の正本 まことに 宿善なくては 拝見まうさぬ ことなりと 仰られ候 #330 (30) 一 のたまはく 諸仏三業荘厳して 畢竟平等なることは 衆生虚誑の身口意を 治せんかためとのへたまふ P--1226 と いふは 諸仏の弥陀に帰して 衆生を たすけらるゝ ことよと 仰られ候 #331 (31) 一 一念の信心をえて のちの相続といふは さらに 別のことにあらす はしめ 発起するところの 安心 を 相続せられて たふとくなる 一念のこゝろの とほるを 憶念の心つねにとも 仏恩報謝とも い ふなり いよ〜 帰命の一念 発起すること 肝要なりと おほせ候なり #332 (32) 一 のたまはく 朝夕 正信偈和讃にて 念仏まうすは 往生のたねに なるへきか なるましきかと をの 〜 坊主に御たつねあり みなまうされけるは 往生のたねに なるへしと まうしたる人もあり 往 生のたねには なるましきといふ人も ありけるとき 仰に いつれもわろし 正信偈和讃は 衆生の弥 陀如来を 一念に たのみまいらせて 後生たすかりまうせとの ことはりを あそはされたり よくき ゝわけて 信をとりて ありかたや〜と 聖人の御前にて よろこふことなりと くれ〜 仰候なり #333 (33) 一 南無阿弥陀仏の六字を 他宗には 大善大功徳にて あるあひた となへて この功徳を 諸仏菩薩 諸 天にまいらせて その功徳を わかものかほにするなり 一流にはさなし この六字の名号 わかものに て ありてこそ となへて 仏菩薩に まいらすへけれ 一念一心に 後生たすけたまへと たのめは  やかて 御たすけに あつかることの ありかたさ〜と まうすはかりなりと 仰候なり #334 (34) 一 三河の国 浅井の後室 御いとまこひにとて まいり候に 富田殿へ 御下向のあしたの ことなれは  ことのほかの 御とりみたしにて 御座候に 仰に 名号を たゝとなへて 仏にまいらする こゝろに P--1227 てはゆめ〜なし 弥陀をしかと 御たすけ候へと たのみまいらすれは やかて 仏の御たすけに あ つかるを 南無阿弥陀仏と まうすなり しかれは 御たすけに あつかりたることの ありかたさよ 〜と こゝろにおもひ まいらするを くちにいたして 南無阿弥陀仏〜と まうすを 仏恩を報す るとは まうすことなりと 仰候ひき #335 (35) 一 順誓 まうしあけられ候 一念発起のところにて 罪みな消滅して 正定聚不退の くらゐに さたまる と 御文に あそはされたり しかるに つみは いのちのあるあひた つみもあるへしと おほせさふ らふ 御文と 別にきこえ まうしさふらふやと まうしあけ候とき 仰に 一念のところにて 罪皆き えてとあるは 一念の信力にて 往生さたまるときは 罪は さはりともならす 去は無分なり 命の娑 婆に あらんかきりは 罪はつきさるなり 順誓は はや悟て つみはなきかや 聖教には 一念のとこ ろにて つみ きえてと あるなりと 仰られ候 罪のあるなしの 沙汰をせんよりは 信心を取たるか  取さるかの沙汰を いくたひも〜よし 罪きえて 御たすけあらんとも つみ消すして 御たすけある へしとも 弥陀の 御はからひなり 我として はからふへからす たゝ信心肝要なりと くれ〜 仰 られ候なり #336 (36) 一 真実信心の称名は 弥陀廻向の法なれは 不廻向となつけてそ 自力の称念きらはるゝと いふは 弥陀 のかたより たのむこゝろも たふとやありかたやと 念仏まうすこゝろも みなあたへ たまふゆへに  P--1228 とやせん かくやせんと はからふて 念仏申すは 自力なれは きらふなりと 仰せ さふらふなり  #337 (37) 一 無生の生とは 極楽の生は 三界をへめくる こゝろにて あらされは 極楽の生は 無生の生と いふ なり #338 (38) 一 廻向といふは 弥陀如来の 衆生を 御たすけを いふなりと 仰られ候なり #339 (39) 一 仰に 一念発起の義 往生は決定なり つみけして 助たまはんとも 罪けさすして たすけたまはんと も 弥陀如来の 御はからひなり つみの沙汰 無益なり たのむ衆生を 本と たすけたまふ 事なり と 仰られ候なり #340 (40) 一 仰に 身をすてゝ をの〜と 同座するをは 聖人の おほせにも 四海の信心の人は みな兄弟と  仰られたれは 我も その御ことはの ことくなり また 同座をもしてあらは 不審なることをも と へかし 信をよく とれかしと ねかふはかりなりと 仰られ候なり #341 (41) 一 愛欲の広海に 沈没し 名利の大山に 迷惑して 定聚のかすに いることを よろこはす 真証の証に  ちかつく事を たのしますと まうす沙汰に 不審の あつかひともにて 往生せんするか すましきな んとゝ 互に まうしあひけるを ものこしに きこしめされて 愛欲も名利も みな煩悩なり されは  機のあつかひをするは 雑修なりと おほせ候なり たゝ信するほかは 別のことなしと 仰られ候 #342 (42) 一 ゆふさり 案内をもまうさす ひと〜おほく まいりたるを 美濃殿 まかりいて候へと あら〜と  P--1229 御まうしのところに 仰に さやうにいはん ことはにて 一念のことを いひてきかせて かへせかし と 東西を走まはりて いひたきことなりと 仰られ候とき 慶聞房 なみたを流し あやまりて候とて  讃嘆ありけり 皆々落涙まうす事 かきりなかりけり #343 (43) 一 明応六年十一月 報恩講に 御上洛なく候あひた 法慶坊 御使として 当年は 御在国にて 御座さふ らふあひた 御講をなにと 御沙汰あるへきやと たつね御まうし候に 当年よりは 夕の六とき 朝の 六ときを かきりに みな退散あるへしとの 御文をつくらせて かくのことく めさるへきよし 御掟 あり 御堂の夜の宿衆も その日の頭人はかりと 御掟なり また上様は 七日の御講のうちを 富田殿 にて 三日御つとめありて 廿四日には 大坂殿へ 御下向にて 御勤行なり #344 (44) 一 同七年の夏より また御違例にて 御座候あひた 五月七日に 御いとまこひに 聖人へ 御まいり あ りたきと おほせられて 御上洛にて やかておほせに 信心なきひとには あふましきそ 信をうるも のには 召ても みたくさふらふ 逢へしと 仰なりと[云云] #345 (45) 一 今の人は 古をたつぬへし また古ひとは 古をよくつたふへし 物語は うするものなり 書したるも のは うせす候 #346 (46) 一 赤尾の道宗 まうされ候 一日のたしなみには 朝つとめに かゝさしと たしなむへし 一月のたしな みには ちかきところ 御開山様の 御座候ところへ 参へしとたしなめ 一年のたしなみには 御本寺 P--1230 へ 参へしと 嗜へしと[云云] これを 円如様 きこしめし及れ 能申たると おほせられ候 #347 (47) 一 我か心に まかせすして 心を責よ 仏法は 心のつまる物かと おもへは 信心に 御なくさみ候と  仰られ候 #348 (48) 一 法敬坊 九十まて 存命さふらふ この歳まて 聴聞まうし さふらへとも これまてと 存知たること なし あきたりもなき 事なりと まうされ候 #349 (49) 一 山科にて 御法談の 御座候とき あまりに ありかたき 御掟ともなりとて これを 忘まうしてはと 存し 御座敷をたち 御堂へ 六人よりて 談合さふらへは 面々に きゝかへられ候 そのうちに 四 人は ちかひさふらふ 大事のことにて候と まうす事なり 聞まとひあるものなり #350 (50) 一 蓮如上人の御とき こゝろさしの衆も 御前に おほく候とき このうちに 信をえたるもの いくたり あるへきそ 一人か二人か あるへきかなと 御掟候とき をの〜 きもをつふし候と まうされさふ らふ 由に候 #351 (51) 一 法慶まうされさふらふ 讃嘆のとき なにも おなしやうにきかて 聴聞は かとをきけと まうされさ ふらふ 詮あるところを きけとなり #352 (52) 一 憶念称名 いさみありてとは 称名は いさみの念仏なり 信のうへは うれしくいさみて まうす念仏 なり P--1231 #353 (53) 一 御文のこと 聖教は よみちかへもあり こゝろえも ゆかぬところもあり 御文は よみちかへも あ るましきと おほせられ さふらふ 御慈悲の きはまりなり これを きゝなから こゝろえのゆかぬ は 無宿善の機なり #354 (54) 一 御一流の御こと このとしまて 聴聞まうし さふらふて 御ことはを うけたまはり さふらへとも  たゝ心か 御ことはの ことくならすと 法慶まうされ候 #355 (55) 一 実如上人 さい〜仰られ候 仏法のこと わかこゝろに まかせす たしなめと 御掟なり こゝろに まかせては さてなり すなはち こゝろにまかせす たしなむ心は 他力なり #356 (56) 一 御一流の義を 承はりわけたる ひとは有とも 聞うる人は 少なりといへり 信をうる機 まれなりと  いへる意なり #357 (57) 一 蓮如上人の御掟には 仏法のことをいふに 世間のことに とりなす人のみなり それを退屈せすして  また 仏法のことに とりなせと 仰られ候なり #358 (58) 一 たれのともからも われはわろきと おもふもの ひとりとしても あるへからす これしかしなから  聖人の御罰を かうふりたる すかたなり これによりて 一人つゝも 心中を ひるかへさすは なか き世 泥梨にふかく しつむへきものなり これといふも なにことそなれは 真実に 仏法のそこを  しらさるゆへなり P--1232 #359 (59) 一 みなひとの まことの信は さらになし ものしりかほの ふせいにてこそ 近松殿の 堺へ御下向のと き なけしに おしてをかせられ候 あとにて このこゝろを おもひいたし さふらへと 御掟なり  光応寺殿の 御不審なり ものしりかほとは 我はこゝろえたりと おもふか このこゝろなり #360 (60) 一 法慶坊 安心のとほりはかり 讃嘆するひとなり 言南無者の釈をは いつもはつさす ひく人なり そ れさへ さしよせてまうせと 蓮如上人御掟候なり ことはすくなに 安心のとほり申せと 御掟なり #361 (61) 一 善宗まうされ候 こゝろさし まうし候とき わかものかほに もちてまいるは はつかしきよし まう され候 なにとしたる ことにて候やと まうし候へは これはみな 御用のものにてあるを わかもの ゝやうに もちてまいると まうされ候 たゝ上様のもの とりつき候 ことにて候を 我ものかほに  存するかと まうされ候 #362 (62) 一 津国くんけの 主計とまうす人あり ひまなく 念仏まうす間 ひけをそるとき 切ぬことなし わすれ て 念仏まうすなり 人は くちはたらかねは 念仏も すこしのあひたも まうされぬかと こゝろも となき 由に候 #363 (63) 一 仏法者まうされ候 わかきとき 仏法は たしなめと候 としよれは 行歩もかなはす ねふたくもある なり たゝわかきとき たしなめと候 #364 (64) 一 衆生を しつらひたまふ しつらふといふは 衆生のこゝろを そのまゝをきて よきこゝろを 御くは P--1233 へさふらひて よくめされ候 衆生のこゝろを みなとりかへて 仏智はかりにて 別に御みたて候 こ とにては なくさふらふ #365 (65) 一 わか妻子ほと 不便なることなし それを勧化せぬは あさましきことなり 宿善なくは ちからなし  わか身をひとつ 勧化せぬものか あるへきか #366 (66) 一 慶聞坊のいはれ候 信はなくて まきれまはると 日に〜 地獄かちかくなる まきれまはるか あら はれは 地獄かちかくなるなり うちみは 信不信みえすさふらふ とをく いのちをもたすして 今日 はかりとおもへと ふるき こゝろさしのひと 申され候 #367 (67) 一 一度のちかひか 一期のちかひなり 一度のたしなみか 一期のたしなみなり そのゆへは そのまゝい のちをはれは 一期のちかひに なるによりてなり #368 (68) 一 今日はかり おもふこゝろを わするなよ さなきはいとゝ のそみおほきに [覚如様御歌] #369 (69) 一 他流には 名号よりは 絵像 絵像よりは 木像といふなり 当流には 木像よりは ゑさふ 絵像より は 名号といふなり #370 (70) 一 御本寺北殿にて 法敬坊に対して 蓮如上人 仰せられ候 われは何事をも 当機をかゝみ おほしめし  十あるものを 一にするやうに かろ〜と 理のやかて叶様に 御沙汰候 是を人か考へぬと 仰られ 候 御文等をも 近年は 御ことはすくなに あそはされ候 今は ものを聞うちにも 退屈し 物を聞 P--1234 おとす間た 肝要の事を やかてしり候やうに あそはされ候の由 仰られ候 #371 (71) 一 法印兼縁 幼少の時 役にて あまた小名号を 申入候時 信心やある をの〜と 仰られ候 信心は  体名号にて候 今思合せ候との 義に候 #372 (72) 一 蓮如上人仰られ候 堺の日向屋は 三拾万貫を 持たれとも 死たるか 仏にはなり候まし 大和の了妙 は 帷ひら一をも きかね候へとも 此度 仏になるへきよと 仰られ候由に候 #373 (73) 一 蓮如上人へ 久宝寺の法性 申され候は 一念に後生 御たすけ候へと 弥陀をたのみ 奉り候計にて  往生一定と存候 かやうにて 御入候かと 申され候へは 或人わきより それは いつもの事にて候  別のこと 不審なることなと 申され候はてと 申され候へは 蓮如上人仰られ候 それそとよ わろき とは めつらしき事を 聞たくおもひ しりたく思ふなり 信のうへにては いくたひも 心中のをもむ き かやうに申さるへき ことなるよし 仰られ候 #374 (74) 一 蓮如上人仰られ候 一向に不信の由 申さるゝ人は よく候 ことはにて 安心のとほり申候て 口には  同ことくにて まきれて 空くなるへき人を 悲く覚候由 仰られ候なり #375 (75) 一 聖人の御一流は 阿弥陀如来の 御掟なり されは御文には 阿弥陀如来の 仰られけるやうはと あそ はされ候 #376 (76) 一 蓮如上人 法敬に対せられ 仰られ候 今 此の弥陀を たのめといふことを 御教へ候人を しりたる P--1235 かと 仰られ候 順誓 存せすと申され候 今御をしへ候人を いふへし 鍛冶番匠なとも 物ををしふ るに 物を出すものなり 一大事のことなり 何そものを まいらせよ いふへきと 仰られ候時 順誓  なか〜 何たるもの成とも 進上いたすへきと 申され候 蓮如上人仰られ候 此事を をしふる人は  阿弥陀如来にて候 阿弥陀如来の われをたのめとの 御をしへにて候由 仰られ候 #377 (77) 一 法敬坊 蓮如上人へ 申され候 あそはされ候 御名号 焼申候か 六体の仏に なり申候 不思議なる 事と 申され候へは 前々住上人 其時仰られ候 それは 不思議にてもなきなり 仏の仏に 御なり候 は 不思議にてもなく候 悪凡夫の 弥陀をたのむ 一念にて 仏になるこそ 不思議よと 仰られ候な り #378 (78) 一 朝夕は 如来聖人の 御用にて候あひた 冥加のかたを ふかく存すへき由 折々 前々住上人 仰せら れ候 由に候 #379 (79) 一 前々住上人 仰られ候 かむとはしるとも 呑としらすなと いふことかあるそ 妻子を帯し 魚鳥を服 し 罪障の身なりといひて さのみ 思のまゝには あるましき由 仰られ候 #380 (80) 一 仏法には 無我と仰られ候 我と思ことは いさゝか あるましきこと也 われはわろしと おもふ人な し これ聖人の御罰なりと 御詞候 他力の御すゝめにて候 ゆめ〜 我といふことは あるましく候 無我といふ事 前住上人も 度々仰られ候 P--1236 #381 (81) 一 日比しれるところを 善知識にあひて とへは 徳分あるなり しれるところをとへは 徳分あるといへ るか 殊勝のことはなりと 蓮如上人仰られ候 不知処をとはゝ いかほと 殊勝なること あるへきと  仰られ候 #382 (82) 一 聴聞を申も 大略 我ためとはおもはす やゝもすれは 法文の一をも きゝおほえて 人にうりこゝろ あるとの 仰ことにて候 #383 (83) 一 一心に たのみ奉る機は 如来のよく しろしめすなり 弥陀の 唯しろしめすやうに 心中をもつへし  冥加をおそろしく 存すへきことにて 候との義に候 #384 (84) 一 前住上人仰られ候 前々住より 御相続の義は 別義なきなり 只弥陀たのむ 一念の義より外は 別義 なく候 これより外 御存知なく候 いかやうの 御誓言も あるへき由 仰られ候 #385 (85) 一 同仰られ候 凡夫往生 たゝたのむ一念にて 仏にならぬ事あらは いかなる御誓言をも 仰らるへき証 拠は 南無阿弥陀仏なり 十方の諸仏 証人にて候 #386 (86) 一 蓮如上人仰られ候 物をいへ〜と 仰られ候 物を申さぬ者は おそろしきと 仰られ候 信不信とも に たゝ物をいへと 仰られ候 物を申せは 心底もきこえ 又人にも なをさるゝなり たゝ物を申せ と 仰られ候 #387 (87) 一 蓮如上人仰られ候 仏法は つとめの ふしはかせもしらて よくすると思ふなり つとめのふし わろ P--1237 きよしを仰られ 慶聞坊を いつもとりつめ 仰られつる由に候 それに付て 蓮如上人仰られ候 一向 にわろき人は ちかひなとゝ いふ事もなし たゝわろきまてなり わろしとも 仰こともなきなり 法 義をもこゝろにかけ ちとこゝろえも ある上のちかひか ことの外の 違ひなりと 仰られ候由に候 #388 (88) 一 人のこゝろえのとほり 申されけるに 我こゝろはたゝ かこに 水を入候やうに 仏法の御座敷にては  ありかたくも たふとくも存候か やかて もとの心中に なされ候と 申され候所に 前々住上人 仰 られ候 そのかこを 水につけよ 我みをは 法にひてゝをくへきよし 仰られ候由に候 万事信なきに よりて わろきなり 善知識の わろきと仰らるゝは 信のなきことを くせことゝ 仰られ候事に候  #389 (89) 一 聖教を拝見申すも うか〜と おかみ申すは その詮なし 蓮如上人は たゝ聖教をは くれ〜と仰 られ候 又百遍これをみれは 義理をのつから うると申す 事もあれは 心をとゝむへきことなり 聖 教は 句面のことく こゝろうへし 其上にて 師伝口業は あるへきなり 私にして 会釈すること  然へからさる事なり #390 (90) 一 前々住上人 仰られ候 他力信心〜と みれは あやまりなきよし 仰られ候 #391 (91) 一 我はかりと思ひ 独覚心なること あさましきことなり 信あらは 仏の慈悲を うけとり申す上は 我 はかりと 思ふことは あるましく候 触光柔軟の願 候ときは 心も やはらくへき ことなり され は 縁覚は 独覚のさとり なるかゆへに 仏にならさるなり P--1238 #392 (92) 一 一句一言も 申す者は 我と思て 物を申すなり 信のうへは われはわろしと思ひ 又報謝と思ひ あ りかたさの あまりを 人にも申す ことなるへし #393 (93) 一 信もなくて 人に 信をとられよ〜と 申すは 我は 物をもたすして 人に 物をとらすへきと い ふの心なり 人承引あるへからすと 前住上人 申さると 順誓に 仰られ候き 自信教人信と 候時は  まつ我か信心 決定して 人にも教て 仏恩になるとの ことに候 自身の安心 決定して 教るは す なはち 大悲伝普化の 道理なる由 同く仰られ候 #394 (94) 一 蓮如上人仰られ候 聖教よみの 聖教よますあり 聖教よますの 聖教よみあり 一文字をも しらねと も 人に聖教をよませ 聴聞させて 信をとらするは 聖教よますの 聖教よみなり 聖教をはよめとも  真実によみもせす 法義もなきは 聖教よみの 聖教よますなりと 仰られ候  自信教人信の道理也と仰られ候事 #395 (95) 一 聖教よみの 仏法を 申たてたることは なく候 尼入道のたくひの たふとやありかたやと 申され候 を きゝては 人か信をとると 前々住上人 仰られ候由に候 何もしらねとも 仏の加備力の故に 尼 入道なとの よろこはるゝを きゝては 人も信をとるなり 聖教をよめとも 名聞か さきにたちて  心には 法なき故に 人の信用なき也 #396 (96) 一 蓮如上人仰られ候 当流には 総体 世間機わろし 仏法のうへより 何事も あひはたらくへき こと P--1239 なるよし 仰られ候と[云云] #397 (97) 一 同仰られ候 世間にて 時宜しかるへきは よき人なりと いへとも 信なくは 心ををくへきなり 便 にもならぬなり 仮令片目つふれ 腰をひき候やうなる ものなりとも 信心あらん人をは たのもしく  思ふへきなりと 仰られ候 #398 (98) 一 君を思ふは 我を思ふなり 善知識の仰に随ひ 信をとれは 極楽へ 参る者なり #399 (99) 一 久遠劫より 久き仏は 阿弥陀仏なり かりに 果後の方便によりて 誓願をまうけ たまふことなり #3100 (100) 一 前々住上人 仰られ候 弥陀をたのめる人は 南無阿弥陀仏に 身をは まるめたる事なりと 仰られ候 と[云云] 弥冥加を 存すへきの由に候 #3101 (101) 一 丹後法眼[蓮慈] 衣裳とゝのへられ 前々住上人の 御前に 伺候さふらひし時 仰られ候 衣のえりを  御たゝきありて 南無阿弥陀仏よと 仰られ候 又前住上人は 御たゝみをたゝかれ 南無阿弥陀仏に  もたれたる由 仰られ候き 南無阿弥陀仏に 身をはまるめたると 仰られ候と 符合申候 #3102 (102) 一 前々住上人 仰られ候 仏法のうへには 毎事に付て 空おそろしき事と 存候へく候 たゝよろつに付 て 油断あるましき事と 存候への由 折々に仰られ候と[云云] 仏法には 明日と申事 有間敷候 仏法 の事は いそけ〜と 仰られ候なり #3103 (103) 一 同仰に 今日の日は あるましきと 思へと 仰られ候 何事も かきいそきて 物を御沙汰候 由に候  P--1240 なか〜したる事を 御嫌の由に候 仏法のうへには 明日のことを 今日するやうに いそきたる事  賞翫なり #3104 (104) 一 同仰にいはく 聖人の御影を申すは 大事のことなり 昔は 御本尊よりほかは 御座なきことなり 信 なくは 必御罰を蒙るへき由 仰られ候 #3105 (105) 一 時節到来といふこと 用心をもして 其上に 事の出来候を 時節到来とは いふへし 無用心にて 出 来候を 時節到来とは いはぬことなり 聴聞を 心かけてのうへの 宿善無宿善とも いふ事なり た ゝ信心は きくにきはまる事なる由 仰の由候 #3106 (106) 一 前々住上人 法敬に対して 仰られ候 まきたてといふもの 知たるかと 法敬御返事に まきたてと申 すは 一度たねをまきて 手をさゝぬものに候と 申され候 仰にいはく それそまきたて わろきなり  人になをされましきと 思ふこゝろなり 心中をは 申出して 人になをされ候はては 心得のなをるこ と あるへからす まきたてにては 信をとること あるへからすと 仰られ候[云云] #3107 (107) 一 何ともして 人になをされ候やうに 心中を持へし 我心中をは 同行の中へ うち出して をくへし  下としたる人の いふことをは 用ひすして 必す 腹立するなり あさましきことなり たゝ人に な をさるゝやうに 心中を持へき 義に候 #3108 (108) 一 人の 前々住上人へ 申され候 一念の処 決定にて候 やゝもすれは 善知識の御ことはを おろそか P--1241 に存候由 申され候へは 仰られ候は 最も信のうへは 崇仰の心 あるへきなり さりなから 凡夫の 心にては 加様の心中の おこらん時は 勿体なき事と おもひすつへしと 仰られしと[云云] #3109 (109) 一 蓮如上人 兼縁に対せられ 仰られ候 たとひ 木の皮をきる いろめなりとも なわひそ たゝ弥陀を たのむ 一念を よろこふへき由 仰られ候 #3110 (110) 一 前々住上人 仰られ候 上下老若によらす 後生は 油断にて しそんすへきの由 仰られ候 #3111 (111) 一 前々住上人 御口のうち 御煩候に おりふし 御目をふさかれ あゝと仰られ候 人の信なきことを  思ふ事は 身をきりさくやうに かなしきよと 仰られ候由に候 #3112 (112) 一 同仰に 我は 人の機をかゝみ 人にしたかひて 仏法を 御聞せ候由 仰られ候 いかにも 人のすき たる事なと 申させられ うれしやと 存候処に 又仏法の事を 仰られ候 いろ〜御方便にて 人に  法を御聞せ 候つる由に候 #3113 (113) 一 前々住上人 仰られ候 人々の 仏法を信して 我によろこはせんと 思へり それはわろし 信をとれ は 自身の勝徳なり さりなから 信をとらは 恩にも 御うけあるへきと 仰られ候 又聞たくも な き事なりとも まことに 信をとるへきならは きこしめすへき由 仰られ候 #3114 (114) 一 同仰に まことに 一人なりとも 信をとるへきならは 身を捨よ それは すたらぬと 仰られ候 #3115 (115) 一 あるとき仰られ候 御門徒の心得を なをすと きこしめして 老の皺をのへ候と 仰られ候 P--1242 #3116 (116) 一 ある御門徒衆に 御尋候 そなたの坊主 心得のなをりたるを うれしく存するかと 御尋候へは 申さ れ候 寔に 心得をなをされ 法義を 心にかけられ候 一段ありかたく うれしく存し候由 申され候  その時仰られ候 われはなを うれしく 思ふよと 仰られ候 #3117 (117) 一 おかしき 事態をも させられ 仏法に 退屈仕候者の 心をもくつろけ 其気をも うしなはして 又 あたらしく 法を仰られ候 誠に 善巧方便 ありかたき 事なり #3118 (118) 一 天王寺土塔会 前々住上人 御覧候て 仰られ候 あれほとの 多き人とも 地獄へおつへしと 不便に 思召候由 仰られ候 又其中に 御門徒の人は 仏になるへしと 仰られ候 是又 ありかたき 仰にて 候 蓮如上人御一代聞書 本 P--1243 #2末 蓮如上人御一代聞書 末 #3119 (119) 一 前々住上人 御法談已後 四五人の御兄弟へ 仰られ候 四五人の衆 寄合談合せよ 必す 五人は 五 人なから 意巧にきくものなる間 能々談合すへきの由 仰られ候  #3120 (120) 一 たとひなき事成とも 人申候はゝ 当座領掌すへし 当座に詞を返せは ふたゝひ いはさるなり 人の いふ事をは たゝふかく 用心すへきなり 是に付て ある人あひたかひに あしき事を 申すへしと  契約候し処に すなはち 一人の あしきさまなること 申しけれは 我は左様に 存せされとも 人の 申す間 左様に候と申す されは 此返答 あしきとの事に候 さなきことなりとも 当座はさそと 申 へき事なり #3121 (121) 一 一宗之繁昌と申は 人の多くあつまり 威の大なる 事にてはなく候 一人なりとも 人の信を取か 一 宗の繁昌に候 然は 専修正行の繁昌は 遺弟の念力より 成すと あそはされをかれ候 #3122 (122) 一 前々住上人 仰られ候 聴聞心に入れ申さんと 思ふ人はあり 信をとらんすると 思ふ人なし されは  極楽は たのしむと聞て 参んと 願ひのそむ人は 仏にならす 弥陀を たのむ人は 仏になると 仰 P--1244 られ候 #3123 (123) 一 聖教をすき こしらへもちたる 人の子孫には 仏法者 いてくるものなり 一たひ 仏法をたしなみ  さふらふ人は おほやうなれとも おとろきやすきなり #3124 (124) 一 御文は 如来の直説なりと 存すへきの由に候 形をみれは法然 詞を聞は 弥陀の直説といへり #3125 (125) 一 蓮如上人 御病中に 慶聞に 何そ物をよめと 仰られ候とき 御文を よみ申すへきかと 申され候  さらは よみ申せと 仰られ候 三通二度つゝ 六遍よませられて 仰られ候 我つくりたる ものなれ とも 殊勝なるよと 仰られ候 #3126 (126) 一 順誓申されしと[云云] 常には 我前にては いはすして 後言いふとて 腹立することなり 我はさやう には 存せす候 我前にて申にくゝは かけにてなりとも 我わろき事を 申されよ 聞て 心中をなを すへき由 申され候 #3127 (127) 一 前々住上人 仰られ候 仏法のためと 思召候へは なにたる御辛労をも 御辛労とは 思召れぬ由 仰 られ候 御心まめにて 何事も 御沙汰候由なり #3128 (128) 一 法には あらめなるかわろし 世間には 微細なるといへとも 仏法には 微細に心をもち こまかに心 を はこふへき由 仰られ候 #3129 (129) 一 とをきは ちかき道理 ちかきは とをき道理あり 灯台 もとくらしとて 仏法を 不断聴聞申す身は  P--1245 御用を 厚かうふりて いつものことゝ思ひ 法義に をろそかなり とをく候人は 仏法をきゝたく  大切にもとむる こゝろありけり 仏法は 大切にもとむるより きくものなり #3130 (130) 一 ひとつことを聞て いつもめつらしく 初たるやうに 信のうへには あるへきなり たゝ珍しきことを  きゝたく思ふなり ひとつことを 幾度聴聞 申すとも めつらしく はしめたるやうに あるへきなり #3131 (131) 一 道宗は たゝ一御詞を いつも聴聞申か 初たるやうに 難有由申され候 #3132 (132) 一 念仏申も 人の名聞けに おもはれんと思ひて たしなむか 大儀なる由 或人申され候 つねの人の心 中に かはり候事 #3133 (133) 一 同行同侶の 目をはちて 冥慮をおそれす たゝ冥見を おそろしく 存すへきことなり #3134 (134) 一 たとひ正義たりとも しけからんことをは 停止すへき由候 まして世間の儀 停止候はぬこと しかる へからす いよ〜 増長すへきは 信心にて候 #3135 (135) 一 蓮如上人 仰られ候 仏法には まいらせ心わろし 是をして 御心に叶はんと 思ふ心なり 仏法のう へは 何事も報謝と 存すへきなりと[云云] #3136 (136) 一 人の身には 眼耳鼻舌身意の 六賊ありて 善心をうはふ これは諸行のことなり 念仏はしからす 仏 智の心を うるゆへに 貪瞋痴の煩悩をは 仏の方より 刹那に けしたまふなり 故に 貪瞋煩悩中  能生清浄 願往生心といへり 正信偈には 譬如日光覆雲霧 雲霧之下明無闇と いへり P--1246 #3137 (137) 一 一句一言を 聴聞するとも たゝ得手に 法を聞なり たゝよくきゝ 心中のとほりを 同行にあひ 談 合すへき ことなりと[云云] #3138 (138) 一 前々住上人 仰られ候 神にも仏にも 馴ては 手てすへきことを 足にてするそと 仰られける 如来 聖人 善知識にも なれ申ほと 御こゝろやすく 思なり 馴申ほと 弥渇仰の心を ふかく はこふへ き事 尤なる由仰られ候 #3139 (139) 一 くちと 身のはたらきとは 似するものなり 心根か よくなりかたき ものなり 涯分心の方を 嗜み 申すへき ことなりと[云云] #3140 (140) 一 衣裳等に いたるまて 我物と思ひ 踏たゝくる事 浅間敷事なり 悉く聖人の 御用物にて候間 前々 住上人は めし物なと 御足にあたり候へは 御いたゝき候由 うけたまはり及ひ候 #3141 (141) 一 王法は 額にあてよ 仏法は 内心に深く 蓄よとの仰に候 仁義といふ事も 端正あるへき ことなる よしに候 #3142 (142) 一 蓮如上人 御若年の比 御迷惑の ことにて候し たゝ御代にて 仏法を 仰たてられんと 思召候 御 念力一にて 御繁昌候 御辛労故に候 #3143 (143) 一 御病中に 蓮如上人仰られ候 御代に 仏法を是非とも 御再興あらんと 思召候 御念力一にて か やうに今まて 皆々心やすく あることは 此法師か 冥加に叶によりての ことなりと 御自讃あり P--1247 と[云云] #3144 (144) 一 前々住上人は 昔は こふくめをめされ候 白小袖とて 御心やすく 召れ候御事も 御座なく候由に候  いろ〜 御かなしかりける事とも 折々 御物語候 今々の者は さやうの事を 承り候て 冥加を存 すへきの由 くれ〜 仰られ候 #3145 (145) 一 よろつ御迷惑にて 油をめされ候はんにも 御用脚なく やう〜 京の黒木を すこしつゝ 御とり候 て 聖教なと 御覧候由に候 又少々は 月の光にても 聖教をあそはされ候 御足をも 大概水にて  御洗候 亦二三日も 御膳まいり 候はぬ事も候由 承りをよひ候 #3146 (146) 一 人をも 甲斐〜敷 めしつかはれ 候はてあるうへは 幼童の襁褓をも ひとり御洗候なとゝ 被仰候 #3147 (147) 一 存如上人 召遣はれ候 小者を 御雇候て めしつかはれ候由に候 存如上人は 人を五人 めしつかは れ候 蓮如上人 御隠居の時も 五人めしつかはれ候 当時は御用とて 心のまゝなる事 そらおそろし く 身もいたく かなしく存すへき 事にて候 #3148 (148) 一 前々住上人 仰られ候 昔は 仏前に伺候の人は 本は紙絹に 輻をさし著候 今は白小袖にて 結句  きかへを 所持候 これ其比は 禁裏にも 御迷惑にて 質ををかれて 御用にさせられ候と 引ことに  御沙汰候 #3149 (149) 一 又仰られ候 御貧く候て 京にて 古き綿を 御とり候て 御一人 ひろけ候事あり 又御衣は かたの P--1248 破たるを めされ候 白き御小袖は 美濃絹の わろきをもとめ やう〜一つ めされ候よし 仰られ 候 当時は かやうの事をも しり候はて あるへきやうに 皆々存し候程に 冥加につき申へし 一大 事也 #3150 (150) 一 同行善知識には よく〜 ちかつくへし 親近せさるは 雑修の失なりと 礼讃にあらはせり あしき ものに ちかつけは それには馴しと 思へとも 悪事より〜にあり たゝ仏法者には 馴ちかつくへ き由 仰られ候 俗典にいはく 人の善悪は 近習ふによると またその人を しらんとおもはゝ その 友をみよといへり 善人の敵とは なるとも 悪人を友とすること なかれといふ事あり #3151 (151) 一 きれは弥かたく 仰けは弥たかしと いふことあり 物をきりてみて かたきとしるなり 本願を信して  殊勝なるほとも しるなり 信心おこりぬれは たふとくありかたく よろこひも 増長あるなり #3152 (152) 一 凡夫の身にて 後生たすかることは たゝ 易きとはかり 思へり 難中之難とあれは 堅くおこし難  信なれとも 仏智より易得 成就したまふ事なり 往生ほとの一大事 凡夫のはからふへきに あらすと いへり 前住上人仰に 後生一大事と 存する人には 御同心あるへきよし 仰られ候と[云云] #3153 (153) 一 仏説に 信謗あるへきよし 説をきたまへり 信する者はかりにて 謗する人なくは ときをきたまふこ と いかゝとも思ふへきに はや謗するもの あるうへは 信せんにをいては 必往生決定との 仰に候 #3154 (154) 一 同行のまへにては よろこふものなり これ名聞なり 信のうへは 一人居て よろこふ法なり P--1249 #3155 (155) 一 仏法には 世間のひまを闕て きくへし 世間の隙をあけて 法をきくへき様に 思ふ事 浅間敷ことな り 仏法には 明日といふ事は あるましき由の 仰に候 たとひ大千世界に みてらん火をも すきゆ きて 仏の御名をきく人は なかく不退にかなふなりと 和讃に あそはされ候 #3156 (156) 一 法敬申され候と[云云] 人より合 雑談ありし なかはに ある人ふと 座敷を立れ候 上人 いかにと仰 けれは 一大事の急用ありとて たゝれけり 其後 先日はいかにふと たゝれ候やと 問けれは 申さ れ候 仏法の物語 約束申たる間 あるもあられすして まかりたち候由 申され候 法義には かやう にそ 心をかけ候へき 事なる由 申され候 #3157 (157) 一 仏法を あるしとし 世間を 客人とせよと いへり 仏法のうへよりは 世間のことは 時にしたかひ  相はたらくへき 事なりと[云云] #3158 (158) 一 前々住上人 南殿にて 存覚御作分の聖教 ちと不審なる 所の候を いかゝとて 兼縁 前々住上人へ  御目に かけられ候へは 仰られ候 名人のせられ候 物をは そのまゝにて 置ことなり これか名誉 なりと 仰られ候也 #3159 (159) 一 前々住上人へ ある人申され候 開山の御時のこと 申され候 是はいかやうの 子細にて候と 申され けれは 仰られ候 我もしらぬことなり 何事も〜 しらぬことをも 開山の めされ候やうに 御沙 汰候と 仰られ候 P--1250 #3160 (160) 一 総体人には をとるましきと 思ふ心あり 此心にて 世間には 物をしならふなり 仏法には 無我に て候うへは 人にまけて 信をとるへきなり 理をみて 情をおるこそ 仏の御慈悲よと 仰られ候 #3161 (161) 一 一心とは 弥陀をたのめは 如来の仏心と ひとつになしたまふかゆへに 一心といへり #3162 (162) 一 或人申され候と[云云] 我は井の水をのむも 仏法の御用なれは 水の一口も 如来聖人の 御用と存候由  申され候 #3163 (163) 一 蓮如上人 御病中に仰られ候 御自身何事も 思召立候ことの 成行ほとの ことはあれとも 成らすと いふことなし 人の信なきことはかり かなしく 御なけきは 思召の由 仰られ候 #3164 (164) 一 同仰に 何事をも 思召まゝに 御沙汰あり 聖人の御一流をも 御再興候て 本堂御影堂をも たてら れ 御住持をも 御相続ありて 大坂殿を 御建立有て 御隠居候 然は我は 功成名遂て 身退は 天 の道也といふこと 其れ 御身の上なるへきよし 仰られさふらふと #3165 (165) 一 敵の陣に 火をともすを 火にてなきとは 思はす いかなる人なりとも 御ことはのとほりを 申し  御詞をよみ申さは 信仰し うけたまはるへき 事なりと #3166 (166) 一 蓮如上人 おり〜仰られ候 仏法の義をは 能々人にとへ 物をは人によく とひ申せのよし 仰られ 候 誰にとひ申へき由 うかゝひ申けれは 仏法たにもあらは 上下をいはすとふへし 仏法は しりさ ふもなきものか 知そと仰られ候と[云云] P--1251 #3167 (167) 一 蓮如上人 無紋のものを きることを 御きらひ候 殊勝さふに みゆるとの仰に候 又すみの黒き衣を  き候を 御きらひ候 墨のくろき衣をきて 御所へ参れは 仰られ候 衣紋たゝしき 殊勝の御僧の 御 出候と 仰られ候て いやわれは 殊勝にもなし たゝ弥陀の本願 殊勝なるよし 仰られ候 #3168 (168) 一 大坂殿にて 紋のある御小袖を させられ 御座の上に 掛られて をかれ候由に候 #3169 (169) 一 御膳まいり候時には 御合掌ありて 如来聖人の 御用にて 衣食よと仰られ候 #3170 (170) 一 人は あかり〜て おちはをしらぬなり たゝつゝしみて 不断 そらおそろしきことゝ 毎事に付て  心を もつへきの由 仰られ候 #3171 (171) 一 往生は 一人のしのきなり 一人[々々] 仏法を信して 後生を たすかる事なり よそ事のやうに 思ふ 事は 且は我身を しらぬことなりと 円如仰候ひき #3172 (172) 一 大坂殿にて或人 前々住上人に 申され候 今朝暁より 老たる者にて候か 参られ候 神変なることな る由 申され候へは やかて仰られ候 信たにあれは 辛労とは おもはぬなり 信のうへは 仏恩報謝 と 存し候へは 苦労とは 思はぬなりと 仰られしと[云云] 老者と申すは 田上の了宗なりと[云云] #3173 (173) 一 南殿にて 人々よりあひ 心中を何かと あつかひ申所へ 前々住上人 御出候て 仰られ候 何事をい ふそ たゝ何事のあつかひも 思ひすてゝ 一心に 弥陀を うたかひなく たのむはかりにて 往生は  仏のかたより 定ましますそ 其証は 南無阿弥陀仏よ 此うへは何事をか あつかふへきそと 仰られ P--1252 候 若不審なとを申にも 多事を たゝ御一言にて はらりと 不審はれ候ひしと[云云] #3174 (174) 一 前々住上人 おとろかす かひこそなけれ 村雀 耳なれぬれは なるこにそのる 此歌を 御引ありて  折々仰られ候 たゝ人は 皆耳なれ雀なりと 仰られしと[云云] #3175 (175) 一 心中を あらためんとまては 思ふ人はあれとも 信をとらんと 思ふ人は なきなりと 仰られ候 #3176 (176) 一 蓮如上人 仰られ候 方便を わろしといふ事は 有間敷なり 方便を以て 真実をあらはす 廃立の義  よく〜しるへし 弥陀釈迦善知識の 善巧方便によりて 真実の信をは うることなる由 仰られ候と [云云] #3177 (177) 一 御文はこれ 凡夫往生の鏡なり 御文のうへに 法門あるへきやうに 思ふ人あり 大なる誤りなりと [云云] #3178 (178) 一 信のうへは 仏恩の称名 退転あるましき事なり 或は心より たふとく有難く 存するをは 仏恩と思 ひ たゝ念仏の 申され候をは それほとに 思はさること 大なる誤りなり 自ら念仏の 申され候こ そ 仏智の御もよほし 仏恩の称名なれと 仰事に候 #3179 (179) 一 蓮如上人 仰られ候 信のうへは たふとく思ひて 申す念仏も またふと申す念仏も 仏恩にそなはる なり 他宗には 親のため またなにのため なんとゝて 念仏をつかふなり 聖人の御一流には 弥陀 をたのむか 念仏なり 其うへの称名は なにともあれ 仏恩になるものなりと 仰られ候[云云] P--1253 #3180 (180) 一 或人いはく 前々住上人の御時 南殿とやらんにて 人蜂を殺し候に 思ひよらす 念仏申され候 其時 何と思ふて 念仏をは申たると 仰られ候へは たゝかあいやと 存するはかりにて 申候と 申されけ れは 仰られ候は 信のうへは 何ともあれ 念仏申は 報謝の義と存すへし 皆仏恩になると 仰られ 候 #3181 (181) 一 南殿にて 前々住上人 のうれんを 打あけられて 御出候とて 南無阿弥陀仏〜と 仰られ候て 法 敬此心しりたるかと 仰られ候 なにとも存せすと 申され候へは 仰られ候 これは我は 御たすけ候  御うれしや たふとやと 申心よと 仰られ候[云云] #3182 (182) 一 蓮如上人へ 或人安心のとほり 申され候{西国の人と[云云]} 安心の一通を 申され候へは 仰られ候 申候ことく の 心中に候はゝ それか肝要と 仰られ候 #3183 (183) 一 同仰られ候 当時ことはにては 安心のとほり 同やうに 申され候ひし 然者 信治定の人に紛て 往 生をしそんすへきことを かなしく思召候由 仰られ候 #3184 (184) 一 信のうへは さのみわろき事は 有間敷候 或は人のいひ候なとゝて あしき事なとは あるましく候  今度生死の 結句をきりて 安楽に生せんと 思はん人 いかんとして あしきさまなる事を すへきや と 仰られ候 #3185 (185) 一 仰にいはく 仏法をは さしよせて いへ〜と仰られ候 法敬に対し仰られ候 信心安心といへは 愚 P--1254 痴のものは 文字もしらぬなり 信心安心なといへは 別の様にも思ふなり たゝ凡夫の 仏になること を をしふへし 後生たすけたまへと 弥陀をたのめと いふへし 何たる 愚痴の衆生なりとも 聞て 信をとるへし 当流には これよりほかの 法門はなきなりと 仰られ候 安心決定鈔にいはく 浄土の 法門は 第十八の願を よく〜 こゝろうるのほかには なきなりといへり 然は 御文には 一心一 向に 仏たすけたまへと 申さん衆生をは 縦ひ罪業は 深重なりとも 必す弥陀如来は すくひましま すへし これすなはち 第十八の 念仏往生の 誓願の意なりと いへり #3186 (186) 一 信をとらぬによりて わろきそ たゝ信をとれと 仰られ候 善知識のわろきと 仰られけるは 信のな きことを わろきと仰らるゝなり 然者 前々住上人 或人を 言語道断わろきと 仰られ候処に 其人 申され候 何事も 御意のことくと 存候と 申され候へは 仰られ候 ふつとわろきなり 信のなきは  わろくはなきかと 仰られ候と[云云] #3187 (187) 一 蓮如上人 仰られ候 何たる事を きこしめしても 御心には ゆめ〜不叶なりと 一人なりとも 人 の信を とりたることを きこしめしたきと 御独言に仰られ候 御一生は 人に信をとらせたく 思召 れ候由 仰られ候 #3188 (188) 一 聖人の御流は たのむ一念の所 肝要なり 故に たのむといふことをは 代々あそはしをかれ 候へと も 委く何とたのめと いふことを しらさりき 然は 前々住上人の御代に 御文を御作候て 雑行を P--1255 すてゝ 後生たすけたまへと 一心に 弥陀をたのめと あきらかに しらせられ候 然は 御再興の上 人にて ましますものなり #3189 (189) 一 よきことをしたるか わろきことあり わろき事をしたるか よき事あり よきことをしても 我は法義 に付て よき事をしたると思ひ 我といふ事あれは わろきなり あしき事をしても 心中をひるかへし  本願に帰すれは わろき事をしたるか よき道理になる由 仰られ候 しかれは 蓮如上人は まいらせ 心か わろきと 仰らるゝと[云云] #3190 (190) 一 前々住上人 仰られ候 思ひよらぬ者か 分に過て 物を出し候はゝ 一子細あるへきと 思ふへし 我 こゝろならひに 人より ものをいたせは うれしく思ふ程に 何そ用をいふへき時は 人か さやうに するなりと 仰られ候 #3191 (191) 一 行さき むかひはかりみて あしもとをみねは ふみかふるへきなり 人のうへはかりみて わか身のう へのことを たしなますは 一大事たるへきと 仰せられ候 #3192 (192) 一 善知識の仰なりとも 成るましなんと思ふは 大なる あさましきことなり 成さる事なりとも 仰なら は なるへきと存すへし 此凡夫の身か 仏になるうへは さてあるましきと 存することあるへきか  然は道宗 近江の湖を 一人してうめよと 仰候とも 畏りたると申へく候 仰にて候はゝ ならぬこと あるへきかと 被申候 P--1256 #3193 (193) 一 いたりてかたきは 石なり 至てやはらかなるは 水なり 水よく石を穿つ 心源もし徹しなは 菩提の 覚道 何事か 成せさらんといへる 古き詞あり いかに不信なりとも 聴聞を 心にいれまうさは 御 慈悲にて候間 信をうへきなり 只仏法は 聴聞に きはまることなりと[云云] #3194 (194) 一 前々住上人 仰られ候 信決定の人をみて あのことく ならてはと思へは なるそと仰られ候 あのこ とくに なりてこそと 思ひすつること 浅間敷ことなり 仏法には 身をすてゝ のそみもとむる心よ り 信をは 得ることなりと[云云] #3195 (195) 一 人のわろきことは よく〜みゆるなり 我身のわろきことは おほえさるものなり 我身にしられて  わろきことあらは よく〜 わろけれはこそ 身にしられ候と おもひて 心中をあらたむへし たゝ 人のいふことをは よく信用すへし 我わろきことは おほえさる ものなる由 仰られ候 #3196 (196) 一 世間の物語ある 座敷にては 結句法義のことを いふ事もあり さやうの段は 人なみたるへし 心に は 油断有へからす あるひは講談 又は仏法の 讃嘆なといふ時 一向に 物をいはさること 大なる 違なり 仏法讃嘆と あらん時は いかにも 心中をのこさす あひたかひに 信不信の義 談合申へき  こと也と[云云] #3197 (197) 一 金森の善従に 或人申され候 此間さこそ徒然に 御入候ひつらんと 申しけれは 善従申され候 我身 は 八十にあまるまて 徒然といふことをしらす その故は 弥陀の御恩の 難有ほとを存し 和讃聖教 P--1257 等を 拝見申候へは 心面白も 又たふときこと 充満するゆへに 徒然なることも 更になく候と 申 され候由に候 #3198 (198) 一 善従申され候とて 前住上人仰られ候 ある人 善従の宿所へ 行候処に 履をも脱候はぬに 仏法のこ と 申しかけられ候 又或人申され候は 履をさへ ぬかれ候はぬに いそきかやうには 何とて 仰候 そと 人申けれは 善従申され候は いつるいきは 入るをまたぬ浮世なり もし履をぬかれぬまに 死 去候はゝ いかゝ候へきと 申され候 たゝ仏法の事をは さし急申すへきの由 仰られ候 #3199 (199) 一 前々住上人 善従の事を 仰られ候 いまた 野村殿御坊 其沙汰もなきとき 神無森をとほり 国へ下 向の時 輿よりおりられ候て 野村殿の方をさして 此とほりにて 仏法か ひらけ申へしと 申され候 し 人々是は年よりて かやうのことを 申され候なと 申けれは 終に 御坊御建立にて 御繁昌候  不思議のことゝ 仰られ候き 又善従は 法然の化身なりと 世上に 人申つると 同仰られ候き 彼往 生は 八月廿五日にて候 #3200 (200) 一 前々住上人 東山を御出候て 何方に御座候とも 人不存候しに 此善従 あなたこなた 尋申されけれ は 有所にて 御目にかゝられ候 一段御迷惑の体にて 候つる間 前々住上人にも さためて善従 か なしまれ申へきと 思召れ候へは 善従御目にかゝられ あらありかたや 早仏法は ひらけ申へきよと  申され候 終に此詞符合候 善従は 不思議の人なりと 蓮如上人 仰られ候し由 上人 仰られ候き  P--1258 #3201 (201) 一 前住上人 先年大永三 蓮如上人 廿五年之三月始比 御夢御覧候 御堂上壇 南の方に 前々住上人  御座候て 紫の御小袖を めされ候 前住上人へ 対しまいらせられ 仰られ候 仏法は 讃嘆談合にき はまる よく〜 讃嘆すへき由 仰られ候 誠に夢想とも いふへきことなりと 仰られ候き 然はそ の年 殊に讃嘆を 肝要と仰られ候 それに付て 仰られ候は 仏法は 一人居て 悦ふ法也 一人居て さへ たふときに まして二人よりあはゝ いかほと ありかたかるへき 仏法をは たゝ より合〜  談合申せの由 仰られ候也 #3202 (202) 一 心中を改め候はんと 申す人 何をかまつ 改め候はんと 申され候 万つわろきことを 改めてと 加 様に 仰られ候 いろをたて きはを立て 申出て 改むへき事なりと[云云] なにゝてもあれ 人のなを さるゝをきゝて 我もなをるへきと 思ふて 我とかを 申いたさぬは なをらぬそと 仰られ候と[云云] #3203 (203) 一 仏法談合のとき 物を申さぬは 信のなきゆへなり 我心に たくみ案して 申すへきやうに 思へり  よそなる物を たつねいたすやうなり 心にうれしき事は 其儘なるものなり 寒なれは寒 熱なれは熱 と そのまゝ 心のとほりを いふなり 仏法の座敷にて 物を申さぬことは 不信の故なり また油断 といふ事も 信のうへの事なるへし 細々同行により合 讃嘆申さは 油断は あるましきの由に候 #3204 (204) 一 前々住上人 仰られ候 一心決定のうへ 弥陀の御たすけ ありたりといふは さとりのかたにして わ ろし たのむ所にて たすけたまひ候事は 歴然に候へ共 御たすけあらふすといふて 然るへきの由  P--1259 仰られ候[云云] 一念帰命の時 不退の位に住す これ不退の密益也 是涅槃分なる由 仰られ候と[云云] #3205 (205) 一 徳大寺の唯蓮坊 摂取不捨の ことはりを しりたきと 雲居寺の阿弥陀に 祈誓ありけれは 夢想に  阿弥陀の 今の人の袖を とらへたまふに にけゝれとも しかととらへて はなしたまはす 摂取とい ふは にくる者を とらへて をきたまふやうなる ことゝ こゝにて思付たり 是を引言に 仰られ候 #3206 (206) 一 前々住上人 御病中に 兼誉 兼縁 御前に伺候して ある時尋申され候 冥加といふ事は 何としたる ことにて 候と申せは 仰られ候 冥加に叶といふは 弥陀をたのむ 事なるよし 仰られ候と[云云] #3207 (207) 一 人に仏法の事を申て よろこはれは われは その悦ふ人よりも なをたふとく 思ふへきなり 仏智を  つたへ申すによりて かやうに 存せられ候事と 思ひて 仏智の御方を 有難く 存せらるへしとの義 に候 #3208 (208) 一 御文をよみて 人に 聴聞させんとも 報謝と存すへし 一句一言も 信の上より申せは 人の信用もあ り また報謝ともなるなり #3209 (209) 一 蓮如上人 仰られ候 弥陀の光明は たとへは ぬれたる物をほすに うへよりひて 下まて ひること くなる事也 是は日の力らなり 決定の心おこるは 是則他力の御所作なり 罪障は悉く 弥陀の御けし ある ことなるよし 仰られ候と[云云] #3210 (210) 一 信心治定の人は 誰によらす まつみれはすなはち たふとくなり候 これその人の たふときにあらす  P--1260 仏智をえらるゝか ゆへなれは 弥陀仏智の ありかたきほとを 存すへき事なりと[云云] #3211 (211) 一 蓮如上人 御病中の時 仰られ候 御自身何事も 思召のこさるゝ ことなしと 但御兄弟の中 その外 誰にも 信のなきを かなしく思召候 世間には よみちのさはりと いふことあり 我にをいては 往 生すとも それなし たゝ信のなき事 これを歎しく 思召候と 仰られ候と #3212 (212) 一 蓮如上人 あるひは人に 御酒をも下され 物をも下されて かやうの事とも 有難存させ 近つけさせ られ候て 仏法を御きかせ候 されはかやうに 物を下され候事も 信をとらせらるへき ためと思召せ は 報謝と思召候由 仰られ候と[云云] #3213 (213) 一 同仰にいはく 心得たと思ふは 心得ぬなり 心得ぬと思ふは こゝろえたるなり 弥陀の御たすけ あ るへきことの たふとさよと思か 心得たるなり 少も心得たると 思ふことは あるましきことなりと  仰られ候 されは 口伝鈔にいはく されは この機のうへに たもつところの 弥陀の仏智を つのら んよりほかは 凡夫いかてか 往生の得分 あるへきやといへり #3214 (214) 一 加州菅生の願生 坊主の聖教を よまれ候をきゝて 聖教は 殊勝に候へとも 信か御入なく候間た た ふとくも 御入なきと申され候 此ことを 前々住上人 きこしめし 蓮智をめしのほせられ 御前にて  不断聖教をも よませられ 法義のことをも 仰せきかせられて 願将に仰られ候 蓮智に 聖教をも  よみならはせ 仏法の事をも 仰きかせられ候よし 仰られ候て 国へ御下し候 其後は 聖教をよまれ P--1261 候へは 今こそ殊勝に候へとて ありかたかられ 候由に候 #3215 (215) 一 蓮如上人 幼少なる者には まつ物をよめと 仰られ候 又其後は いかによむとも 復せすは 詮ある へからさる由 仰られ候 ちと物に 心も付候へは いかに物をよみ 声をよく 読しりたるとも 義理 をわきまへてこそと 仰られ候 其後はいかに 文釈を覚たりとも 信かなくは いたつら事よと 仰ら れ候 #3216 (216) 一 心中のとほり 或人 法敬坊に申され候 御詞の如くは 覚悟仕候へとも たゝ油断不沙汰にて あさま しき ことのみに候と 申され候 其時 法敬坊申され候 それは 御詞のことくにては なく候 勿体 なき 申され事に候 御詞には 油断不沙汰 なせそとこそ あそはされ候へと 申され候と[云云] #3217 (217) 一 法敬坊に 或人不審申され候 これほと仏法に 御心をもいれられ候 法敬坊の尼公の 不信なる いか ゝの義に候由 申され候へは 法敬坊申され候 不審さることなれとも これほと朝夕 御文をよみ候に  驚き申さぬ心中か なにか 法敬か申分にて 聞入候へきと 申され候と[云云] #3218 (218) 一 順誓申され候 仏法の物語申に かけにて申候段は なにたる わろき事をか 申へきと存し 脇より  汗たり申候 前々住上人 聞召所にて申時は わろき事をは やかて 御なをしあるへきと 存候間 心 安く存候て 物をも 被申候由に候 #3219 (219) 一 前々住上人 仰られ候 不審と 一向しらぬとは 各別なり 知ぬことをも 不審と申す事 いはれなく P--1262 候 物を分別して あれはなにと これはいかゝなと いふやうなることか 不審にて候 子細も しら すして まうす事を 不審と申まきらかし候由 仰られ候 #3220 (220) 一 前々住上人 仰られ候 御本寺御坊をは 聖人 御存生之時のやうに 思召され候 御自身は 御留主を  当座御沙汰候 然とも 御恩を 御忘候事は なく候と 御斎の御法談に 被仰候ひき 御斎を 御受用 候間にも 少も御忘候事は 御入なきと 仰られ候 #3221 (221) 一 善如上人 綽如上人 両御代の事 前住上人 仰られ候こと 両御代は 威儀を本に 御沙汰候し由 仰 られし 然は今に 御影に御入候由 仰られ候 黄袈裟黄衣にて候 然は 前々住上人の御時 あまた御 流にそむき候 本尊以下 御風呂のたひことに やかせられ候 此二幅の御影をも やかせらるへきにて  御取出候ひつるか いかゝ思召 候ひつるやらん 表紙に書付を よしわろしと あそはされて とりて をかせられ候 此事を 今御思案候へは 御代のうちさへ かやうに 御ちかひ候 ましていはんや 我 等式の者は 違たるへき間 一大事と存 つゝしめよとの 御事に候 今思召あはせられ候由 仰られ候 なり 又よしわろしと あそはされ候こと わろしとはかり あそはし候へは 先代の御事にて 候へは と思召 かやうに あそはされ候事に候と 仰られ候 又前々住上人の御時 あまた昵近のかた〜 ち かひ申事候 弥一大事の 仏法のことをは 心をとゝめて 細々人に問 心得申へきの由 仰られ候 #3222 (222) 一 仏法者の 少の違を見ては あのうへさへ かやうに候とおもひ 我身をふかく 嗜むへき事なり しか P--1263 るを あのうへさへ 御ちかひ候 ましてわれらは ちかひ候はてはと 思ふこゝろ おほきなる あさ ましき事なり[云云] #3223 (223) 一 仏恩を嗜むと 仰候事 世間の物を嗜むなとゝ いふやうなる ことにてはなし 信のうへに たふとく 難有存し よろこひ申す透間に 懈怠申す時 かゝる広大の御恩を わすれ申すことの あさましさよと  仏智にたちかへりて 難有やたふとやと 思へは 御もよほしにより 念仏を申すなり 嗜むとは これ なる由の義に候 #3224 (224) 一 仏法に厭足なけれは 法の不思議を きくといへり 前住上人 仰られ候 たとへは世上に わかすきこ のむことをは しりても〜 猶能しりたふ思ふに 人にとひ いくたひも 数奇たる事をは 聞ても 〜 能きゝたく思ふ 仏法の事も いくたひ聞ても あかぬ事なり しりても〜 存たき事なり 法 義をは 幾度も〜 人にとひきはめ 申すへき事なる由 仰られ候 #3225 (225) 一 世間へつかふ事は 仏の物を 徒らにすることよと おそろしく思ふへし さりなから 仏法の方へは  いかほと 物を入ても あかぬ道理なり 又報謝にも なるへしと[云云] #3226 (226) 一 人の辛労もせて 徳をとる上品は 弥陀をたのみて 仏になるに すきたることなしと 仰られ候と[云云] #3227 (227) 一 皆人毎に よきことをいひもし 働もすることあれは 真俗ともに それをわかよき者に はやなりて  その心にて 御恩といふことは うちわすれて わかこゝろ 本になるによりて 冥加につきて 世間仏 P--1264 法ともに 悪き心か 必す〜出来するなり 一大事なりと[云云] #3228 (228) 一 堺にて兼縁 前々住上人へ 御文を御申候 其時仰られ候 年もより候に むつかしきことを申候 まつ わろきことを いふよと仰られ候 後に仰られ候は たゝ仏法を信せは いかほとなりとも あそはして  然るへき由 仰られしと[云云] #3229 (229) 一 同く堺の御坊にて 前々住上人 夜更て 蝋燭をともさせ 名号をあそはされ候 其時仰られ候 御老体 にて 御手も振ひ 御目もかすみ候へとも 明日越中へ くたり候と 申候ほとに かやうに あそはさ れ候 辛労をかへりみられす あそはされ候と 仰られ候 しかれは 御門徒のために 御身をはすてら れ候 人に辛労をも させ候はて たゝ信をとらせたく 思召候由被仰候 #3230 (230) 一 重宝の珍物を調へ 経営をして もてなせとも 食せされは その詮なし 同行寄合 讃嘆すれとも 信 をとる人 なけれは 珍物を食せさると 同事なりと[云云] #3231 (231) 一 物にあくことは あれとも 仏に成ことゝ 弥陀の御恩を 喜ふとは あきたる事はなし 焼とも失もせ ぬ重宝は 南無阿弥陀仏なり 然は 弥陀の広大の御慈悲 殊勝なり 信有る人を 見るさへたふとし  よく〜の 御慈悲なりと[云云] #3232 (232) 一 信決定の人は 仏法の方へは 身をかろくもつへし 仏法の御恩をは おもく うやまふへしと[云云] #3233 (233) 一 蓮如上人仰られ候 宿善めてたしといふは わろし 御一流には 宿善有難と申か よく候由仰られ候 P--1265 #3234 (234) 一 他宗には 法にあひたるを 宿縁といふ 当流には 信をとることを 宿善といふ 信心をうること 肝 要なり されは この御をしへには 群機をもらさぬ ゆへに 弥陀の教をは 弘教ともいふ也 #3235 (235) 一 法門をは申には 当流のこゝろは 信心の一義を 申披立たる 肝要なりと[云云] #3236 (236) 一 前々住上人 仰られ候 仏法者には 法の威力にて成なり 威力てなくは なるへからすと 仰られ候  されは 仏法をは 学匠物しりは いひたてす たゝ一文不知の身も 信ある人は 仏智を加へらるゝ故 に 仏力にて候間 人か信をとるなり 此故に 聖教よみとて しかも 我はと思はん人の 仏法を い ひたてたることなしと 仰られ候事に候 たゝなにしらねとも 信心定得の人は 仏より いはせらるゝ 間 人か 信をとるとの 仰に候 #3237 (237) 一 弥陀をたのめは 南無阿弥陀仏の 主になるなり 南無阿弥陀仏の 主に成といふは 信心をうることな りと[云云] 又当流の 真実の宝といふは 南無阿弥陀仏 これ一念の 信心なりと[云云] #3238 (238) 一 一流真宗のうちにて 法をそしり わろさまにいふ人あり 是を思ふに 他門他宗の事は 是非なし 一 宗の中に かやうの人もあるに われら宿善ありて この法を信する身の たふとさよと 思ふへしと [云云] #3239 (239) 一 前々住上人には 何たるものをも あはれみ かはゆく思召候 大罪人とて 人を殺候こと 一段御悲候  存命もあらは 心中をなをすへしと 仰られ候て 御勘気候ても 心中をたにも なをり候へは やかて P--1266 御宥免候と[云云] #3240 (240) 一 安芸の蓮宗 国をくつかへし くせことに付て 御門徒をはなされ候 前々住上人 御病中に 御寺内へ 参り 御詫言申候へとも とりつき候人 なく候し 其折節 前々住上人 ふと仰られ候 安芸を なを さふと思よと 仰られ候 御兄弟以下 御申には 一度仏法に あたをなし申 人にて候へは いかゝと 御申候へは 仰られ候 それそとよ 浅間敷事を いふそとよ 心中たになをらは なにたるもの成とも  御もらしなき ことに候と 仰られ候て 御赦免候ひき 其時 御前へ参 御目にかゝられ候時 感涙  畳にうかひ候と[云云] 而して 御中陰の中に 蓮宗も 寺内にて すきられ候 #3241 (241) 一 奥州に 御一流のことを 申まきらかし候人を きこしめして 前々住上人 奥州の浄祐を 御覧候て  以外御腹立候て さて〜 開山聖人の 御流を 申みたすことの あさましさよ にくさよと 仰られ 候て 御歯をくひしめられて さて切きさみても あくかよ〜と 仰られ候と[云云] 仏法を 申みたす 者をは 一段あさましきそと 仰られ候と[云云] #3242 (242) 一 思案の頂上と 申へきは 弥陀如来の 五劫思惟の本願に すきたることはなし 此御思案の 道理に  同心せは 仏になるへし 同心とて 別になし 機法一体の 道理なりと[云云] #3243 (243) 一 蓮如上人 仰られ候 御身一生涯 御沙汰候事 皆仏法にて 御方便 御調法候て 人に信を 御とらせ あるへき 御ことはりにて候由 仰られ候[云云] P--1267 #3244 (244) 一 同御病中に 仰られ候 今我いふことは 金言なり かまへて〜 能意得よと 仰られ候 又御詠歌の 事 三十一字に つゝくる ことにてこそあれ 是は法門にてあるそと 仰られ候と[云云] #3245 (245) 一 愚者三人に 智者一人とて 何事も 談合すれは 面白きことあるそと 前々住上人 前住上人へ 御申 候 これまた 仏法かたには いよ〜 肝要の 御金言なりと[云云] #3246 (246) 一 蓮如上人 順誓に対し 仰られ候 法敬と我とは 兄弟よと仰られ候 法敬申され候 是は冥加もなき  御事と申され候 蓮如上人仰られ候 信をえつれは さきに生るゝ者は兄 後に生るゝ者は弟よ 法敬と は 兄弟よと仰られ候 仏恩を一同にうれは 信心一致のうへは 四海みな 兄弟といへり #3247 (247) 一 南殿山水の 御縁の床の上にて 蓮如上人 仰られ候 物は 思ひたるより 大にちかふといふは 極楽 へまいりての 事なるへし こゝにて ありかたや たふとやと思ふは 物の数にてもなきなり 彼土へ 生しての歓喜は ことのはも有へからすと 仰られしと #3248 (248) 一 人はそらこと 申さしと嗜むを 随分とこそ思へ 心に偽りあらしと 嗜む人は さのみ 多くはなき者 なり 又よき事は ならぬまても 世間仏法共に 心にかけ 嗜みたき事なりと[云云] #3249 (249) 一 前々住上人 仰られ候 安心決定鈔のこと 四十余年か間 御覧候へとも 御覧しあかぬと 仰られ候  又金をほり出す様なる 聖教なりと 仰られ候 #3250 (250) 一 大坂殿にて 各へ対せられ 仰られ候 此間申しゝことは 安心決定鈔の かたはしを 仰られ候由に候  P--1268 然は 当流の義は 安心決定鈔の義 いよ〜 肝要なりと 仰られ候と[云云] #3251 (251) 一 法敬申され候 たふとむ人より たふとかる人そ たふとかりけると 前々住上人 仰られ候 面白こと をいふよ たふとむ体 殊勝ふりする人は たふとくもなし たゝ有難やと たふとかる人こそ たふと けれ 面白きことをいふよ もとものことを 申され候との 仰事に候と[云云] #3252 (252) 一 文亀三正月十五日の夜 兼縁夢云 前々住上人 兼縁へ御問ありて 仰られ候やう いたつらにある事  あさましく 思召候へは 稽古かた〜 せめて一巻の経をも 日に一度 皆々寄合て よみ申せと 仰 られけりと[云云] 余に人のむなしく 月日を送候ことを 悲く思召候 故の義に候 #3253 (253) 一 同夢云 同年の極月廿八日の夜 前々住上人 御袈裟衣にて 襖障子をあけられ 御出候間 御法談聴聞 申へき 心にて候処に ついたち 障子のやうなる物に 御文の御詞 御入候を よみ申を御覧して そ れは何そと 御尋候間 御文にて候由 申上候へは それこそ肝要 信仰して きけと 仰られけりと [云云] #3254 (254) 一 同夢云 翌年極月廿九日夜 前々住上人 仰られ候やうは 家をはよく作られて 信心をよくとり 念仏 申へき由 かたく 仰られ候ひけりと[云云] #3255 (255) 一 同夢云 近年大永三 正月一日の夜の夢云 野村殿 南殿にて 前々住上人仰云 仏法のこと 色々仰ら れ候て後 田舎には 雑行雑修あるを かたく申つくへしと 仰られ候と[云云] P--1269 #3256 (256) 一 同夢云 大永六正月五日夜夢に 前々住上人 仰られ候 一大事にて候 今の時分か よき時にて候 こ ゝをとりはつしては 一大事と仰られ候 畏たりと 御うけ御申候へは たゝ其畏たると いふにては  なく候ましく候 たゝ一大事にて候由 仰られ候しと[云云] 次夜夢云 蓮誓仰候 吉崎 前々住上人に 当 流の肝要のことを 習申候 一流の依用なき 聖教やなんとを 広くみて 御流をひかさまに とりなし 候こと候 幸に肝要を抜候 聖教候 是か一流の秘極なりと 吉崎にて 前々住上人に 習ひ申候と 蓮 誓 仰られ候しと[云云] 私云夢等をしるすこと 前々住上人 世を去たまへは 今はその一言をも 大切 に存候へは かやうに 夢に入て 仰せ候ことの 金言なること まことの仰せとも 存するまゝ これ をしるすものなり 誠にこれは 夢想とも申へき 事ともにて候 総体夢は妄想なり さりなから 権者 のうへには 瑞夢とて ある事なり 猶以かやうの 金言のことはゝ しるすへしと[云云] #3257 (257) 一 仏恩か たふとく候なとゝ申は 聞にくゝ候 聊爾なり 仏恩を 有難存すと申せは 莫大聞よく候由  仰られ候と[云云] 御文かと申も 聊爾なり 御文を聴聞申て 御文有難と申て よき由に候 仏法の方を は いかほとも 尊敬申へき事と[云云] #3258 (258) 一 仏法の讃嘆のとき 同行を かた〜と申は 平外也 御方々と申て よき由仰ことゝ[云云] #3259 (259) 一 前々住上人 仰られ候 家をつくり候とも つふりたにぬれすは 何とも角とも つくるへし 万事過分 なることを 御きらひ候 衣裳等に いたるまても よきものきんと思は あさましき事なり 冥加を存 P--1270 し たゝ仏法を 心にかけよと 仰られ候[云云] #3260 (260) 一 同仰られ候 いかやうの 人にて候とも 仏法の家に 奉公申候はゝ 昨日まては 他宗にて候とも 今 日は早 仏法の御用と こゝろえへく候 縦ひ あきなひをするとも 仏法の御用と 心得へきと仰られ 候 #3261 (261) 一 同仰云 雨もふり 又炎天の時分は つとめなか〜しく 仕候はて はやく仕て 人をたゝせ候か よ く候由仰られ候 これも御慈悲にて 人々を御いたはり候 大慈大悲の 御あはれみに候 常々の仰には  御身は 人に御したかひ候て 仏法を 御すゝめ候と 仰られ候 御門徒の身にて 御意のことく なら さること 中々あさましき事とも 中々申も ことをろかに候との 義に候 #3262 (262) 一 将軍家[義尚]よりの 義にて 加州一国の一揆 御門徒を 放さるへきとの義にて 加州居住候 御兄弟衆 をも めしのほせられ候 其時前々住上人 仰られ候 加州の衆を 門徒放へきと 仰出され候こと 御 身をきらるゝよりも かなしく思召候 何事をもしらさる 尼入道の類の ことまて思召は 何とも御迷 惑 此事に極由 仰られ候 御門徒を やふらるゝと 申ことは 一段善知識の 御うへにても かなし く思召 さふらふ事に候 #3263 (263) 一 蓮如上人 仰られ候 御門徒衆の はしめて 物をまいらせ候を 他宗に出し候義 あしく候 一度も二 度も 受用せしめ候ひて 出し候て 可然之由仰られ候 かくのことくの子細は 存しもよらぬ 事にて P--1271 候 いよ〜仏法の御用 御恩を をろそかに存すへき ことにてはなく候 驚き入候との事に候 #3264 (264) 一 法敬坊 大坂殿へ 下られ候処に 前々住上人 仰られ候 御往生候とも 十年はいくへしと 仰られ候 処に なにかと申され おしかへし いくへしと 仰られ候処 御往生ありて 一年存命候処に 法敬に  或人仰られ候は 前々住上人 仰られ候に あひ申たるよ そのゆへは 一年も存命候は 命を 前々住 上人より 御あたへ候事にて 候と仰候へは 誠に さにて御入候とて 手をあはせ ありかたき由を  申され候 それより後 前々住上人 仰られ候ことく 十年存命候 誠に冥加に叶はれ候 不思議なる  人にて候 #3265 (265) 一 毎事無用なることを 仕候義 冥加なき由 条々いつも 仰られ候由に候 #3266 (266) 一 蓮如上人 物をきこしめし候にも 如来聖人の 御恩にてまし〜候を 御忘なしと仰られ候 一口きこ しめしても 思召出され候由 仰られ候と[云云] #3267 (267) 一 御膳を御覧しても 人のくはぬ飯を くふことよと 思召候と 仰られ候 物をすくに きこしめすこと なし たゝ御恩の たふときことをのみ 思召候と 仰られ候 #3268 (268) 一 享禄二年 十二月十八日の夜 兼縁夢に 蓮如上人 御文をあそはし 下され候 其御詞に 梅干のたと へ候 梅干のことをいへは 皆人の口一同にすし 一味の安心は かやうにあるへきなり 同一念仏 無 別道故の心にて 候ひつるやうに おほえ候と[云云] P--1272 #3269 (269) 一 仏法を すかさるかゆへに 嗜み候はすと 空善申され候へは 蓮如上人 仰られ候 それは このまぬ は きらふにては なきかと 仰られ候と[云云] #3270 (270) 一 不法の人は 仏法を違例にすると 仰られ候 仏法の御讃嘆あれは あら気つまりや 疾はてよかしと思 ふは 違例にするにては なきかと 仰られ候と[云云] #3271 (271) 一 前住様御病中 正月廿四日に 仰られ候 前々住の 早々我にこひと 左の御手にて 御まねき候 あら ありかたやと くりかへし〜 仰られ候て 御念仏 御申候ほとに をの〜 御心たかひ候て かや うにも 仰候と存候へは 其義にてはなくして 御まとろみ候 御夢に 御覧せられ候由 仰られ候処に て 皆々安堵候ひき これ亦 あらたなる 御事なりと[云云] #3272 (272) 一 同廿五日 兼誉兼縁に 対せられ 仰られ候 前々住上人 御世を譲あそはされて 以来のことゝも 種 々仰られ候 御一身の 御安心のとほり 仰られ 一念に弥陀を たのみ申て 往生は 一定と思召され 候 それに付て 前住上人の御恩にて 今日まて 我と思ふ心を もち候はぬか うれしく候と 仰られ 候 誠にありかたくも 又は驚入申候 我人かやうに 心得申てこそは 他力の信心 決定申たるにては  あるへく候 弥一大事の 御ことに候 #3273 (273) 一 嘆徳の文に 親鸞聖人と申せは その恐ある故に 祖師聖人とよみ候 又開山聖人と よみ申も おそれ ある子細にて 御入候と[云云] P--1273 #3274 (274) 一 たゝ聖人と 直に申せは聊爾なり この聖人と申も 聊爾歟 開山とは 略しては 申へきかとの事に候  たゝ開山聖人と 申して よく候と[云云] #3275 (275) 一 嘆徳の文に 以て弘誓に託すと 申すことを 以てを抜ては よます候と[云云] #3276 (276) 一 蓮如上人 堺の御坊に 御座の時 兼誉御参候 御堂にをいて 卓の上に 御文を をかせられて 一人 二人[乃至]五人十人 参られ候人々に対し 御文をよませられ候 其夜蓮如上人 御物語の時仰られ候 此 間面白き事を 思出て候 常に御文を 一人なりとも 来らん人にも よませてきかせは 有縁の人は  信をとるへし 此間面白き事を 思案し出たると くれ〜仰られ候 さて御文 肝要の御事と 弥々し られ候との事と 仰られ候なり #3277 (277) 一 今生の事を 心に入るほと 仏法を心腹に 入たき事にて候と 人申候へは 世間に対様して 申事は  大様なり たゝ仏法をふかく よろこふへしと[云云] 又いはく 一日[々々]に 仏法は たしなみ候へし 一 期とおもへは 大義なりと 人申され候 又いはく 大義なると思ふは 不足なり 人として 命はいか ほとも なかく候ても あかすよろこふへき 事なりと[云云] #3278 (278) 一 坊主は 人をさへ 勧化せられ候に 我身を 勧化せられぬは あさましき ことなりと[云云] #3279 (279) 一 道宗 前々住上人へ 御文申され候へは 仰られ候 文は とりおとし候事も 候程に たゝ心に 信を たにも とり候へは おとし候はぬよし 仰られ候し 又あくる年 あそはされて 下され候 P--1274 #3280 (280) 一 法敬坊申され候 仏法をかたるに 志の人を 前にをきて語候へは 力かありて 申よき由申され候 #3281 (281) 一 信もなくて 大事の聖教を 所持の人は おさなきものに つるきを もたせ候様に 思召候 その故は  剣は重宝なれとも おさなきもの もち候へは 手を切り 怪我をするなり 持てよく候人は 重宝にな るなりと[云云] #3282 (282) 一 前々住上人 仰られ候 たゝいまなりとも 我しねといはゝ しぬる者は 有へく候か 信をとる者は  あるましきと 仰られ候と[云云] #3283 (283) 一 前々住上人 大坂殿にて 各々に対せられて 仰られ候 一念に 凡夫の往生を とくることは 秘事秘 伝にては なきかと 仰られ候と[云云] #3284 (284) 一 御普請 御造作の時 法敬申され候 なにも不思議に 御誂望等も 御上手に 御座候由 申され候へは  前々住上人 仰られ候 我はなを 不思議なる事を知る 凡夫の仏に なり候ことを 知たると 仰られ 候と #3285 (285) 一 蓮如上人 善従に 御かけ字を あそはされ下され候 其後 善従に御尋候 已前 書つかはし候物をは  なにとしたると 仰られ候 善従申され候 表補絵仕り候て 箱にいれ置き申候由 申され候 そのとき 仰られ候 それは わけもなき事を したるよ 不断かけてをきて そのことく 心ねなせよと いふこ とてこそあれと 仰られ候 P--1275 #3286 (286) 一 同く仰にいはく これの内にゐて 聴聞まうす身は とりはつしたらは 仏にならんよと 仰られ候と[云云] 有難き仰せに候 #3287 (287) 一 仰にいはく 坊主衆等に対せられ 仰られ候 坊主といふものは 大罪人なりと仰られ候 其時みな〜  迷惑申され候 さて仰られ候 罪かふかけれはこそ 阿弥陀如来は 御たすけあれと 仰られ候と[云云] #3288 (288) 一 毎日〜に 御文の御金言を 聴聞させられ候ことは 宝を御賜り候 ことに候と[云云] #3289 (289) 一 開山聖人の御代 高田の[二代]顕智 上洛の時 申され候 今度は既に 御目にかゝるましきと 存候処に  不思議に 御目にかゝり候と 申され候へは それはいかにと 仰られ候 舟路に難風にあひ 迷惑仕候 よし 申され候 聖人仰られ候 それならは 船には のらるましきものをと 仰られ候 其後 御詞の 末にて候とて 一期舟にのられす候 又茸に酔申され 御目に 遅くかゝられ候し時も かくのことく  仰られしとて 一期受用なく候しと[云云] かやうに仰を信し ちかへ申すましきと 存せられ候事 誠に  ありかたき 殊勝の覚悟との 義に候 #3290 (290) 一 身あたゝかなれは ねふりけさし候 あさましきことなり 其覚悟にて 身をもすゝしくもち 眠をさま すへきなり 身随意なれは 仏法世法ともに をこたり 無沙汰油断あり 此義一大事なりと[云云] #3291 (291) 一 信をえたらは 同行にあらく 物も申ましきなり 心和くへきなり 触光柔軟の願あり 又信なけれは  我になりて 詞もあらく 諍も必す 出来る者なり あさまし〜 よく〜 こゝろうへしと[云云] P--1276 #3292 (292) 一 前々住上人 北国の さる御門徒の事を 仰られ候 何として 久く上洛なきそと 仰られ候 御前の人 申され候 さる御方の 御折檻候と 申され候 其時御機嫌 以外悪く候て 仰られ候 開山聖人の御門 徒を さやうにいふ者は あるへからす 御身一人聊爾には 思召さぬものを なにたるものか いふへ きとも とく〜 のほれといへと 仰られ候と[云云] #3293 (293) 一 前住上人 仰られ候 御門徒衆を あしく申事 ゆめ〜 あるましきなり 開山は 御同行御同朋と  御かしつき候に 聊爾に存するは くせことの由 被仰候 #3294 (294) 一 開山聖人の 一大事の 御客人と申すは 御門徒衆の 事なりと 仰られしと[云云] #3295 (295) 一 御門徒衆 上洛候へは 前々住上人 仰られ候 寒天には 御酒等のかんを よくさせられて 路次のさ むさをも 忘られ候様にと 仰られ候 又炎天の時は 酒なとひやせと 仰られ候 御詞を加られ候 又 御門徒の 上洛候を 遅く申入候事 くせことゝ仰られ候 御門徒をまたせ をそく対面すること くせ ことの由 仰られ候と[云云] #3296 (296) 一 万事に付て よき事を 思ひ付るは 御恩なり 悪ことたに 思ひ捨たるは 御恩なり 捨るも取るも  何れも〜 御恩なりと[云云] #3297 (297) 一 前々住上人は 御門徒の進上物をは 御衣の下にて 御おかみ候 又仏の物と 思召候へは 御自身のめ し物まても 御足にあたり候へは 御いたゝき候 御門徒の進上物 すなはち 聖人よりの 御あたへと  P--1277 思召候と 仰られ候と[云云] #3298 (298) 一 仏法には 万かなしきにも かなはぬにつけても 何事に付ても 後生の たすかるへき ことを思へは  よろこひ多きは 仏恩なりと[云云] #3299 (299) 一 仏法者に なれ近付て 損は一つもなし 何たる おかしきこと 狂言にも 是非とも心底には 仏法あ るへしと 思ふほとに 我方に 徳おほきなりと[云云] #3300 (300) 一 蓮如上人 権化の再誕といふこと その証多し 前にこれをしるせり 御詠歌に かたみには 六字の御 名を のこしをく なからんあとの かたみともなれと候 弥陀の化身と しられ候事 歴然たり #3301 (301) 一 蓮如上人 細々 御兄弟衆等に 御足を御見せ候 御わらちの緒 くひ入 きらりと御入候 かやうに  京田舎 御自身は 御辛労候て 仏法を 仰ひらかれ候由 仰られ候しと[云云] #3302 (302) 一 同仰にいはく 悪人のまねを すへきより 信心決定の人の まねをせよと 仰られ候[云云] #3303 (303) 一 蓮如上人御病中 大坂殿より 御上洛之時 明応八二月十八日 さんはの浄賢処にて 前住上人へ対し  御申なされ候 御一流の肝要をは 御文に 委くあそはし とゝめられ候間 今は申まきらかす者も あ るましく候 此分をよく〜 御心得あり 御門徒中へも 仰つけられ候へと 御遺言の由に候 然は前 住上人の 御安心も 御文のことく 又諸国の御門徒も 御文のことく 信をえられよとの 支証のため に 御判を なされ候事と[云云] P--1278 #3304 (304) 一 存覚は 大勢至の化身なりと[云云] 然に 六要鈔には 三心の字訓 其外勘得せすと あそはし 聖人の 宏才 仰へしと候 権化にて候へとも 聖人の御作分を かくのことく あそはし候 誠に 聖意はかり かたき むねをあらはし 自力をすてゝ 他力を仰く 本意にも 叶申候物をや かやうのことか 明誉 にて 御入候と[云云] #3305 (305) 一 註を御あらはし候事 御自身の智解を 御あらはし候はんか ためにてはなく候 御詞を 褒美のため  仰崇の ためにて候と[云云] #3306 (306) 一 存覚御辞世の 御詠にいはく 今ははや 一夜の夢と なりにけり 往来あまたの かりのやと〜 此 言を 蓮如上人 仰られ候と[云云] さては 釈迦の化身也 往来娑婆の心なりと[云云] 我身にかけて こゝ ろえは 六道輪廻 めくり〜て 今臨終のゆふへ さとりを ひらくへしと いふ心なりと[云云] #3307 (307) 一 陽気陰気とてあり されは 陽気をうる花は 早くひらくなり 陰気とて 日陰の花は 遅くさくなり  かやうに 宿善も遅速あり されは 已今当の往生あり 弥陀の光明にあひて はやくひらくる 人もあ り 遅くひらくる 人もあり 兎に角に 信不信ともに 仏法を心に入て 聴聞申へきなりと[云云] 已今 当の事 前々住上人 仰られ候と[云云] きのふあらはす 人もあり けふあらはす 人もありと 仰られ しと[云云] #3308 (308) 一 蓮如上人 御廊下を 御とほり候て 紙切の おちて候ひつるを 御覧せられ 仏法領の物を あたにす P--1279 るかやと 仰られ 両の御手にて 御いたゝき候と[云云] 総して かみのきれなんとの やうなる物をも  仏物と思召 御用ひ候へは あたに 御沙汰なく候の由 前住上人 御物語候ひき #3309 (309) 一 蓮如上人 近年仰られ候 御病中に 仰られ候事 何ことも 金言なり 心をとめて 聞へしと 仰られ 候と[云云] #3310 (310) 一 御病中に 慶聞をめして 仰られ候 御身には 不思議なること有を 気をとりなをして 仰らるへきと  仰られ候と[云云] #3311 (311) 一 蓮如上人 仰られ候 世間仏法ともに 人はかろ〜としたるか よきと仰られ候 黙たるものを 御き らひ候 物を申さぬか わろきと仰られ候 又微音に 物を申を わろしと 仰られ候と[云云] #3312 (312) 一 同く仰にいはく 仏法と世体とは たしなみによると 対句に仰られ候 又法門と庭の松とは いふにあ かると これも対句に 仰られ候と[云云] #3313 (313) 一 兼縁堺にて 蓮如上人 御存生の時 背摺布を 買得ありけれは 蓮如上人 仰られ候 かやうの物は  我方にもあるものを 無用のかいことよと 仰られ候 兼縁自物にて とり申たると 答申候処に 仰ら れ候 それは我物かと 仰られ候 悉く仏物 如来聖人の御用に もるゝことは あるましく候 #3314 (314) 一 蓮如上人 兼縁に 物を下され候を 冥加なきと 御辞退さふらひけれは 仰られ候 つかはされ候物を は たゝ取て 信をよくとれ 信なくは 冥加なきとて 仏の物を 受ぬやうなるも それは 曲もなき P--1280 ことなり 我するとおもふかとよ 皆御用なり 何事か 御用にもるゝことや 候へきと 仰られ候と[云云]                                     実如[(御判)] 蓮如上人御一代記聞書 末